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コラム2026.10.22

木を組む、木で建てる ― 日本の木造のいま

釘を使わずに木と木を組む伝統の技から、厚い板を重ねたCLTまで。日本の木造は、火事への備えから一度は大きな建物から締め出され、法律の見直しとともに戻ってきた。継手の形、構法の違い、そして安藤忠雄が直島で選んだ木の宿を読む。

目次

木造には、いくつもの「つくり方」がある

ひとくちに木造といっても、建て方はさまざまだ。寺社や古い民家に残る「伝統構法」、いまの日本の住宅の多くを占める「在来軸組構法」、北米から来た「枠組壁工法(ツーバイフォー)」、そして厚い板を重ねた「CLT」。どれも木でできているが、地震や重さに耐える仕組みはまったく違う。

図解木造の四つのつくり方
伝統構法継手・仕口と貫で組む在来軸組構法柱・梁に筋かいと金物枠組壁工法板を張った壁の箱で支える(2×4)CLT板を直交に重ねた厚いパネル
  • 伝統構法:接合部を木組みでつくり、金物では補強しない。土塗りの壁や貫、差鴨居などが地震に抵抗する。礎石の上に柱を載せるだけの「石場建て」も、寺社や民家に多く残る。
  • 在来軸組構法:建築基準法に定められた構法。柱と梁の接合部を金物で補強し、筋かいや面材の耐力壁で地震に抵抗する。
  • 枠組壁工法(ツーバイフォー):木の枠に構造用合板などを打ち付けた床と壁で、箱のように建てる。1974年の建設省告示で技術基準が定められ、一般に使えるようになった。
  • CLT(直交集成板):ひき板を、繊維の向きが直交するように重ねて接着した厚いパネル。2016年の告示で、大臣の認定なしに建てられるようになった。

木と木を組む:継手と仕口

伝統構法の要は、木と木のつなぎ方だ。材を長さ方向につなぐものを「継手」、角度をつけて組むものを「仕口」と呼ぶ。代表的な継手に、鎌継ぎと蟻継ぎがある。

鎌継ぎは、鎌首のような形のほぞを、同じ形の穴にはめ込む継手で、7世紀から使われてきたとされる。主に梁をつなぐのに使われ、引っぱられても外れにくい。蟻継ぎは、先が広がった鳩の尾のような形で材の端をつなぐ。金輪継ぎのように、斜めに合わせた材を込栓で締める継手もある。

図解継手:木と木を長くつなぐ
蟻継ぎ先が広がった形が抜けを止める鎌継ぎ首の先の鎌首が引っぱりに強い男木女木上から見た模式図。実際は高さ方向にも段や勾配をつけ、さらに外れにくくする

もう一つ、伝統構法を特徴づけるのが「貫」だ。柱を貫いて水平に渡す材で、位置によって飛貫・腰貫・地貫と呼び分ける。柱と貫が組み合うことで、建物全体が粘り強く揺れに耐える。

一度は締め出された、大きな木造

木は燃える。1950年にできた建築基準法は、防火や耐火の基準を定め、大きな建物に木を使うことを制限してきた。1959年には日本建築学会が、防火や台風などを理由に「木造建築の禁止」を提起したとされる。戦後の都市から、大きな木造建築は姿を消していった。

流れが変わったのは1987年だ。火事のときに燃えて炭になる部分をあらかじめ見込み、燃え残った部分で建物を支える「燃えしろ設計」が導入され、太い木材を使った大きな木造が可能になった。表面の炭の層が、内側への燃え広がりを遅らせる。木の性質を逆手にとった考え方だ。

年表木造をめぐる法律の流れ
  1. 1950建築基準法。防火・耐火の基準で木材の利用を制限
  2. 1959日本建築学会が「木造建築の禁止」を提起したとされる
  3. 1987燃えしろ設計を導入。大断面の木造が可能に
  4. 1992準耐火構造ができる
  5. 2000性能規定化(1998年改正)。木造の耐火建築物が可能に
  6. 2010公共建築物等木材利用促進法
  7. 2016CLTの告示。一般の建築確認で建てられるように
  8. 2021「都市(まち)の木造化推進法」に改正

その後も規制は少しずつ見直された。1998年の法改正(2000年施行)で、決められた仕様ではなく性能で安全を確かめる「性能規定化」が進み、木造でも耐火建築物が建てられるようになった。2019年には、耐火構造などにしなくてよい木造の規模が「高さ13m以下・軒高9m以下」から「高さ16m以下・3階以下」へ広がっている。

Numbers数字で読む木造
8.3%→13.9%公共建築物の木造率(2010年度→2020年度)
29.7%低層の公共建築物の木造率(2020年度)
16m耐火構造を求められない木造の高さの上限(2019年から)
60mセビリア万博日本館の木造の柱間(スパン)

2010年には公共建築物に木材を使うことを促す法律ができ、2021年には対象を民間の建物にも広げた「都市(まち)の木造化推進法」に改められた。公共建築物の木造率は、2010年度の8.3%から2020年度には13.9%へ上がり、低層の建物では29.7%に達している。

コンクリートの建築家が、木を選ぶとき

打放しコンクリートで知られる安藤忠雄も、木の建築を手がけている。1992年のセビリア万博の日本館は木造で、5層、柱と柱のあいだが60mにもなる大きな建物だった。博覧会国際事務局(BIE)は、これを世界最大級の木造建築の一つと紹介している。2000年に完成した愛媛県西条市の南岳山光明寺では、本堂の内部に、幾重にも重なり支え合う木組みが現れる。

直島のベネッセハウスでは、2006年に開いたパークとビーチに集成材が使われた。公式の資料は、パークを「安藤忠雄氏の建築としては珍しい木造」と紹介している。丘の上のミュージアムは鉄筋コンクリート、海辺の宿は木。同じ建築家が、場所に合わせて素材を選び分けている。

コンクリートの丘と、木の浜辺。素材の違いは、地形の違いへの答えでもある。

泊まれる木の名建築

木造のクラシックホテルとしては、奈良ホテル本館がある。1909年に開業し、設計は辰野片岡建築事務所、構造は木造一部煉瓦造。2026年10月には、文化審議会が重要文化財への指定を答申した。ホテル単独で今も営業を続ける建物としては、全国で初めての例になるという。

京都の佳水園も、木造に鉄骨を組み合わせて、薄く軽やかな屋根を実現した数寄屋の宿だ。木造は、伝統の技と新しい技術を組み合わせながら、いまも宿の建築に息づいている。

泊まって、木を見る

木の建物に泊まったら、柱と梁が出会うところを探してみてほしい。金物で留めているのか、木と木が組み合っているのか。夜、静かな部屋で耳を澄ますと、木の建物は温度や湿度の変化に合わせて小さく鳴ることがある。木が生きた材料であることを、体で感じられる時間だ。

この技法が見られるホテル

参考にした資料

  • 防災科学技術研究所 プレスリリース(2010年12月20日)伝統構法と在来構法
  • JAANUS「貫」「鎌継」「蟻継」/コトバンク「枠組壁工法」
  • 林野庁『森林・林業白書』令和3年度版 特集2/林野庁「CLTの告示」資料/国土交通省 報道発表(2018年3月29日)
  • 建築研究所 講演資料(木造の防耐火の変遷、令和5年度)
  • プレジデントオンライン(1959年の日本建築学会の提起について)
  • ベネッセアートサイト直島 プレスリリース/愛媛県 資料(南岳山光明寺)/博覧会国際事務局(BIE)
  • JR西日本 プレスリリース(2026年10月16日)奈良ホテル本館